熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 涙を滲ませたハルを見て、架純は大丈夫だよと彼を励ました。
「あのさ」
「あのね」
 互いに一言目を発して顔を見合わせる。
「スミレの方からどうぞ」
「ハルの方からどうぞ」
 二人してまた笑った。あのレストランの時みたいだった。
「じゃあ俺から言うよ。俺の名前は、桜井陽樹……通称ハル。まあ今さらだけど」
「もしかしてそれで桜?」
「うん。ハルは春の方じゃなくて太陽の陽に樹……」
「そっか。本当に本名に近い、いい感じのネームだったんだね」
「うん。まあ、花が好きだから、自分の本名もネームの方も気に入ってるよ」
 素直にそう言えるハルは、やっぱり心根のまっすぐな人なんだな、と架純は思う。
「私は久遠架純。カスミソウをスミレに混ぜてくれたとき、あんまりにもぴったりだからびっくりしちゃった」
「すごく綺麗な名前。やっぱりお嬢様っていう感じがする。カスミでもスミレでもどっちも合ってる」
「けど」
「けど」
 また被ったと笑いながら二人して同じことを思ったらしい。
「ハルとスミレがいいね」
「やっぱり、そうよね」
「それで……俺も、スミレと同じ心臓疾患があって手術すれば助かるかもしれない。けれど、確率が五分五分だって。それでどうなるかわからなくて迷ったまま今日まで生きてきたんだ」
「うん……」
 その怖さは、架純にも理解できた。生きるか死ぬか、やってみなければわからない。それに賭けられる勇気をすぐに出せる人なんていないと思う。
 しかし予期せぬ発作が起きれば迷う術はない。発作はその決断をいやでも早めるものなのだ。
「スミレが倒れたとき、自分もそうなるんじゃないかと思った。いなくなったらどうしようって。そのとき……自分の命はもうどうなってもいいから友達の命を助けてほしいって願っていた」
「ハル……」
「そしたらなんか吹っ切れたっていうかさ。スミレが無事で助かったって、高辻先生から聞いたときに脱力したよ。なんだ、もっとはやく決断しておけばよかったって」
 ハルの手が少し震えている。でも、架純は黙ったまま彼の話に聞き入った。
「スミレは絶対に長生きするよ。あの高辻先生がついてるんだから」
「うん」
「それで、俺も手術を受ける。友だちを悲しませないように絶対に長生きする」
「……うん」
「だから、俺にブーケを作らせてほしいんだ」
「ブーケ?」
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