極道に過ぎた、LOVE STORY
 その声に、康が差し出した手を止めた。

 「幸…… ごめん……」

 「もういい! あんたなんか知らない!」

 「うっ」

 羽柴が呻き声を上げた。


 「羽柴! 羽柴! しっかりしろ!」

 私は、着ていたシャツの裾をビリビリと破くと、羽柴の胸に力いっぱい当てた。


 「お嬢…… ご無事で……」

 「なんで、こんな……」

 「私の役目は、お嬢をお守りする事です。お嬢が生まれた時から……」

 「もういい、喋るな!」


 「救急車!」

 康の声が倉庫に響いた。


 救急車が到着すると、一緒に乗り込んだ。

 「羽柴、しっかりしろ! こんな事でくたばるんじゃない!」

 羽柴のスーツを脱がし、ワイシャツをハサミで切り、傷を確認する。位置が悪すぎる。


 救急車がたどり着いたのは、長岡総合病院だった。

 西澤部長が緊急入口で到着を待っていた。


 ストレッチャーで運ばれる羽柴の顔は血の気を失っている。

 「羽柴、羽柴! しっかりして!」

 なりふり構わず叫んだ。


 「ここは病院だ! 君はヤクザなのか? それとも医者か?」

 西澤部長の冷静で厳しい声が脳裏に広がった。

 羽柴が手術室へと消えていった。


 私は……

 辺りを見回すと、そこは病院だ。鼻をつく消毒の匂いが広がる。


 私は、処置室の扉を開けた。

 「先生、急いで下さい。人手が足りないんです。助手に入って下さい」

 看護師の矢澤の後を追った。


 手術着に着替え、手術室に入る。

 その途端に、冷静な意識が取り戻された。目の前の羽柴を救う事だけが、私を動かした。



 「遅い! 吸引!」

 「はい」

 羽柴、頑張れ!

 
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