極道に過ぎた、LOVE STORY
 「はい」

 羽柴が返事をした。

 「点滴の交換させて頂きますね」

 入ってきたのは、看護師の矢澤さんだった。


 「あら、幸先生もいらしたのですか」

 矢澤が新しい点滴をホルダーにかけながら言った。

 「ええ」


 「おや? あの時の?」

 羽柴が矢澤さんの顔を見て。驚いたように目を少しだけ大きく開いた。

 「えっ? 羽柴、矢澤さんと知り合いなの?」

 「はっ? お嬢、まさか……」

 羽柴が、片手を額に当てた。


 「どういう事?」

 「さすが羽柴さんですね。覚えていてくださったなんて。その説はお世話になりました」

 「いえ、私は何も。助けたのはお嬢です」

 「ええ? なんの話?」

 私には二人の会話がさっぱり分からない。


 すると、矢澤はスクラブの裾を捲った。

 「あの時の軟膏のお陰で傷が残りませんでした。そして、心の傷も深くならずに済みました」

 軟膏?

 「あああー。あの時の?」

 病室にいることも忘れて、大きな声をあげてしまった。


 確かによく見ると、高校の時に同じクラスで余計なお世話をしてしまった、あの時の彼女だ。全く気付かなかった。あの頃は、必要以上に人の顔も名前も覚える事に意味がないと思っていた。


 「お嬢、本当に気付かなかったのですか? お嬢のそういう所が私は心配なのです」

 包帯を巻かれていない方の手を額に当てた。

 「私も、まさかここまで気付かれないとは、さすがにショックだったわ。フルネームまで名乗ったのに」

 矢澤は、悲しそうに目を細めた。


 「すまない…… でも、言ってくれたら良かったのに」

 「言ったら、またヤクザの娘だってこと気にして距離を置くでしょ?」

 「そうかもれないけど……」


 「高校三年の進路を決める時、あなたが医大に行く事を知ったの。私は、学力的に医者は無理だけど、あなたが医者になった時、必ず味方でいられる位置にいたいと思って、看護師の道を選んだの。長岡総合病院を選んだのはただの偶然だったのよ、幸先生が医者になれば調べるのは簡単だし、そしたら転職すればいいと思っていたんだけど」

 「なぜ、そこまで……」

 「それをあなたが聞く? あの時、パパからのDVに気づいてくれなかったら、私はどうなっていたか分からない。パパだけでなく、ママにも現実と向き合わせてくれた。感謝しても仕切れない」

 「ご両親は?」

 「元気よ。なんだかんだ言いながら楽しくやっているみたい。今じゃ、パパの方がママの言いなりよ」

 「そう」

 私は、あの時の事を思い出しながら、小さく笑った。


 「私は、どんな事があっても、幸先生の見方です。あの時のように、真っ直ぐな医者になってください」

 「矢澤さん……」


 「あら、私も、幸の味方なんだけど。ここまでやらせておいて違うとか言わないでよね」

 ノックもせずに入ってきたのは玲香だった。


 「きゃー羽柴さん、服着てください」

 玲香の顔は真っ赤だ。全く、生意気なこと言うわりに、ウブな仕草を見せるんだから。


 「すみません。入院着が落ち着かなくて」

 羽柴は、ベッドの横に置いてある部屋着を取ると、肩に羽織った。入院着でさえ、ヤクザオーラに変えてしまう、この男はやっぱりこの世界の男なんだと改めて思う。


 玲香と矢澤さんが居る病院。なんだか不思議な気分だった。
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