極道に過ぎた、LOVE STORY
 「ええ。この世界に入ってから今まで、私に物申す者などいませんでした。それが、ここでは医者も看護師も、タバコはダメ、リハビリしろ、寝る時間だ、容赦せず言ってきます。睨んだところで、怯みもしません。ここじゃ、ヤクザなんて無力です」

 そう言って、肩を落とす羽柴の顔は、嬉しそうにも見えた。


 「一度、聞きたかったんだが、羽柴はどうしてこのの世界に入ったんだ。羽柴なら、頭もいいし、それに顔もまあままだ。どんな仕事でも就けたんじゃないのか?」

 「お嬢に、今の私がそう見えるのであれば、それは三代目のおかげです」

「そうなのか」

 羽柴にとって、この世界で生きることが本当に正しい道であったのだろうか?


 「私は孤児だったんです。勉強もスポーツも好きだったんですけど、やはり周りから認められる事は無くて、やっても無駄だと諦めてました。中学卒業と同時に施設を出て働き出したんですが、なかなか上手くいかなくて、結局悪い奴らとつるむようになりました。うっかりヤバイ事に手を出してしまって、その時助けてくれたのが三代目です。

 その恩があって、轟川組に入るしかないと。結局はヤクザの道かと諦めていたんですが、三代目の指示は、大学に行く事でした。
 驚いたのなんのって。ただ、国公立の大学に入れと。これからこの世界も生き残るには、学力が必要であると教えられました。正直、自分が勉強する事を認めてもらえるなんて思っていませんでしたから、必死に勉強して大検とって、無事に入学しました。

 おかげで、組の奴らにも色々な事を教えられるし。組の経営を任されることも出来ました」


 「知らなかった」

 「まあ、言ってませんからね。それから、お嬢が生まれて、子育てと組の管理業務の両立です。大変でした」

 羽柴は、遠くを見て言った。

 「それは、お疲れ様」

 他にかける言葉もない。


 「あの頃から、梅森の動きも怪しくなっていましたから、安全を確保するために姉さんとは表向き離婚という形を取りました。

 三代目は、お嬢の将来をとても心配しておられ、ヤクザの娘というレッテルで、自分の道を歩けなる事だけはしたくないと。ヤクザの娘である事はどうにも変えられないが、せめて堂々と自分の道を歩いて欲しいと願ってました。だから、梅森に脅される事がないよう、梅森を潰す計画を立てたのです」

 「私のために?」

 「もちろんそうですが、組の奴らのためでもあります。そして、お嬢やお嬢の子供たち、その先までも考えての事だったと思います。これからは、轟川組に逆らう者はいないでしょう。組長のいない留守を狙おうと考える組もいたかもしれませんが、姉さんが三代目代理となれば、誰も手を出しませんよ。そんな事したら、簡単に海にドボンです。悪い奴を抑えるには、一番の悪になるしかないですからね」

 「羽柴は、パパの事、なんでも分かるんだな」

 「ええ。表情ひとつで大体の事は察しが付きます」

 「すごいと言うより、怖いけどな」

 私は、羽柴に白い目を向けた。



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