極道に過ぎた、LOVE STORY
 病院の中庭を見回すがいない。まだ、安静が必要なのに、どこに行ったのだろう?

 全く!


 駐車場の方へ足を向けると、病院の門を入ってくる人の姿が見えた。


 遠くからでも分かる。ソフトクリームを手に持ってくる影に、彼だということが。

 ほっとすると同時に、苛立った。


 「どこに行ってたんですか? 午後から検査だと言いましたよね?」

 「これ買ってた。幸も食べる?」

 私は、この呑気な顔に騙されたんだ。


 私は、彼の手からソフトクリームを奪うと、半分以上のクリームを口に入れた。そして、平らげた。

 「ええー せっかく買ってきたのに。食べちゃうなんて……」

 「ソフトクリームが好きだった事だけは、本当だったみたいね」

 肩をガックリと落とした彼が、私の方に目を向けた。


 「本当の事の方が多いよ」

 「名前ですら嘘だったくせに」

 「名前ぐらいだよ」

 「それだけで十分だ」


 「なあ、幸」

 「何?」

 「ここは病院で、幸は医者、俺は患者なんだろ?」

 「そうよ」


 「じゃあ、あの門を出たら?」

 彼が、病院の門の方に目を向けた。


 「病院を出れば、私は…… ヤクザの娘、あなたは警察官。それだけ……」


 「じゃあ、どこにいても同じだな」

 「どういう意味?」


 もう一歩、彼が私に近づいた。

 「幸は幸、俺は俺。それだけ……だろ?」


 そう言った彼の手が、私の頬に触れると唇が重なった。

 冷たい口の中が、ほわりと暖かくなる。

 逃げようと思えば簡単に逃げられたのに、私は逃げなかった。


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