早河シリーズ第二幕【金平糖】
 ビルのエレベーターの表示も地下一階までしかない。本当に“地下二階”は存在するのか?
噂の店はクラブの下と岩田は言うが、地下二階にはどうやって行く?

岩田と熊井を乗せたエレベーターが地下一階で扉を開けた。エレベーターホールの正面には不死鳥の名のつくクラブの真っ赤な扉がある。

『ここに入るんですか?』
『クラブに用はないけどな』

扉の前に立つ黒服の男に岩田は金色のカードを見せた。会員証だ。カードチェックをした男が扉を開けると、熊井の耳に強烈な音が響いた。

 ダンスミュージックの鳴る妖しげで賑やかなフロアでは男と女が狂喜乱舞している。
熊井がクラブを訪れるのは大学以来だ。それも先輩の付き合いで一度行ったきり。
健全と言えば聞こえのいい、つまらない学生時代だった。あの頃もっと遊んでおけばよかったと今さら悔やんでも遅い。

 岩田はクラブで騒ぐ男女の波を掻き分けて奥に進む。ビジネスカバンを抱き抱えて熊井は必死に岩田の後ろを追った。

『クラブの壁に仕掛けがあるんだ』
『仕掛け?』

爆音が鳴り響くフロアでは話し声も上手く聞き取れない。流れてきた煙草の煙にむせつつ、熊井は返事をした。

 そこはクラブの最奥、一見して何の変哲もない壁にはよく見ると小さな窪みがある。岩田は窪みに手をかけ、ゆっくり右側にスライドさせた。
人ひとり通れる幅にスライドした扉の向こうに薄暗く狭い通路が顔を覗かせた。

『忍者屋敷みたいですね』
『面白いだろ? この隠し扉を知ってる者しか秘密の地下二階には行けない。あれが地下二階専用エレベーター』

 奥行き10メートル程の通路の先にはエレベーターが一基ある。エレベーター内のボタンの選択は地下一階と地下二階のみ。
速度の遅い幻のエレベーターが扉を開けた場所は濃いピンクの絨毯が敷かれた異空間。ここがあるはずのない、幻の地下二階。

金色の扉の横にカウンターがあり、ドレッドヘアーの男と銀髪の男がカウンターの内側にいた。

『岩田様。いらっしゃいませ』

二人の男が同時に岩田に頭を下げる。気を良くした岩田は頬を緩め、熊井の腕を引っ張った。

『こいつ俺の紹介で今夜入れてもらっていい?』
『もちろんです。岩田様は今夜もご指名はリカでよろしいでしょうか?』
『いいよ。クマ、お前はどの子にする? 選べよ』

 岩田はカウンターにあった冊子を熊井に渡した。冊子には店の女の子達の写真と名前、誕生日やスリーサイズ、好きなものを書いた簡単なプロフィールが載っている。
写真は顔写真と全身写真の二種類あり、学校の制服やスクール水着、ナースや警察官のコスプレなど服装も様々だ。

 冊子をめくった熊井はある女の子に目を留めた。黒髪のツインテールをしたメイド服の少女。名前はMako。

 Makoは大学時代の元カノのミサに似ていた。
同い年のミサは当時19歳だった熊井の人生初めての彼女だった。1年の後期が始まった頃、講義でたまたま隣の席になったミサは控えめで可憐な女の子だった。
交際期間は1年。熊井の方が振られてしまったのだが、あれから10年が経つ今でも忘れられない女性だ。

『このMakoって子……』
『さすが岩田様のお連れ様、お目が高い! マコは当店の人気ナンバーワンですよ。ちょうど空き時間なのでご指名できると思います』

 入店許可を得た熊井は岩田と共に席に案内され、料金とコースの説明を受けた。
ドリンク付き休憩30分コースは席に座って女の子とお喋りを楽しむコースだ。休憩コースにオプションで1時間、客のほとんどがオプションを利用している。
延長は30分ごとに追加料金がとられるシステム。
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