早河シリーズ第二幕【金平糖】
 早河を意識し始めてから彼と二人きりになるのは初めてだ。有紗は運転席の早河を盗み見る。彼は無言でハンドルを動かしていた。

『さっきから静かだな』
「だって……早河さんと二人きりなんて何話せばいいのかわかんなくて」

赤い顔をしてうつむく有紗を早河は一瞥した。有紗が自分に恋をしているのではないかとなぎさは言っていた。
未成年の家出人を一時保護しただけだったはずが、厄介な状況になったものだ。


 有紗はだんだん迫ってくるその建造物を見るために窓に顔を寄せた。

「もしかして行き先って……」
『女子高生をどこに連れていけば喜ぶかわかんねぇからな。俺が今行きたい場所にした』

早河が駐車場に車を停めた。車を降りた有紗は東京タワーを見上げる。青い空に赤い東京タワーが映えていた。

『行きたくないなら車で留守番してるか?』
「行くに決まってるでしょー! 早河さんと一緒ならどこでも嬉しいもん」

 土曜日の東京タワーは家族連れや恋人、海外の観光客で混雑していた。二人は東京タワーの展望台に到着する。
冬の青空に下の灰色の四角いビルがレゴブロックのように並んでいた。

 早河は思考の整理をしたい時、東京タワーの展望台からこの灰色の街を見下ろしたくなるのだ。
彼の頭の中では有紗の母親の高山美晴の失踪と、一連の女子高生連続殺人事件が交互に回っている。

 聖蘭学園、売春組織MARIA、被害者の手に残された金平糖。

金平糖が御守りと言っていた5年前に失踪した高山美晴、美晴の娘で聖蘭学園生徒の有紗、美晴の幼なじみであり有紗の担任の佐伯洋介。

貴嶋佑聖と和田組の西山元組長、西山の息子で今のMARIAを仕切っている東堂孝広──。

 それぞれの点と点を繋ぐ線は透明だ。まだ完全に見えない糸を辿っていけば高山美晴に辿り着く確信があった。美晴はこの街のどこかにいるのか、……それとも。

「早河さん」
『なんだ?』
「私ね、早河さんが好きなの」

 有紗の両手は早河の右腕を掴んで離さない。彼は視線を下げて有紗を見下ろした。

『有紗は俺を美化してるだろ。俺はそんなに優しい男じゃない』
「知ってる。早河さん意地悪だもん」

にっこり微笑む有紗はまだ何もわかっていない。彼女には早河の伝えたいことは何も伝わっていない。

『お前はまだ高校生だ。年相応の恋愛をしなさい』
「年相応の恋愛って何? 同じ年の男と付き合うのが年相応の恋愛なの? それにまだ高校生じゃなくてもう高校生だよ。子供扱いしないで」

 人目を気にせず抱き付いてきた有紗を早河は抱き締めない。
子供のくせに子供扱いしないでと駄々をこね、人目を気にせずに抱き付いてくる。

そういうところが有紗はまだまだ子供だ。この子供っぽさが、良くも悪くも高校生の年相応とも言える。
しかし、これは荒療治が必要かもしれない。

『お前は俺に大人として扱って欲しいのか?』
「うん。だって私もう大人だよ。17歳なんて見た目は大人の女と変わらないじゃん」
『……帰るぞ』

 彼は有紗に背を向けた。先へ行ってしまう早河を有紗は泣きそうな顔をして追いかける。
帰りの車内は二人とも無言だった。
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