早河シリーズ第二幕【金平糖】
 木内愛の死体が今朝発見されたことで、聖蘭学園では全教師を集めて緊急の職員会議が開かれた。午後には警察が学校に来て事情聴取を受け、教師達は休む暇も与えられない。

夕方にようやく解放された神田友梨はそのまま恋人の佐伯洋介の自宅で土曜日の夜を過ごしていた。

「朝倉先生、今日はなんだか様子がおかしかったけど……職員会議でもずっと震えていて」
『木内さんも朝倉先生のクラスの生徒だからね。ショックが大きいんだろう』

 佐伯が友梨を抱き寄せる。友梨は佐伯に身を任せて目を閉じた。
穏やかな時間が流れている。このままずっと。何も起こらずに彼と平穏に過ごしていたいと彼女は願う。

 友梨の携帯が鳴ったのは午後9時を過ぎた頃。着信は警視庁の小山真紀からだった。

{警視庁の小山です。神田先生、今どちらにいらっしゃいますか?}
「今は佐伯先生の家に……。あの、どうされたのですか?」
{先ほど朝倉修二を住居侵入とあなたへのストーカー容疑で逮捕しました}
「朝倉先生を逮捕?」

逮捕と聞いて側にいる佐伯も驚いている。

{朝倉はあなたに内緒であなたの自宅の合鍵を作って部屋に侵入していたんです}
「合鍵? そんな……」

友梨はしばらく何も言葉が出なかった。

 聖蘭学園教師の朝倉修二は神田友梨の自宅への住居侵入罪(不法侵入)と友梨へのストーカー行為の容疑で逮捕された。

朝倉をマークしていた警視庁の刑事が朝倉が友梨の自宅に合鍵を使って入ろうとしたところを現行犯逮捕、警視庁に連行された。

 朝倉は職員室に置いてある友梨のバッグから自宅の鍵を盗み出して合鍵を作り、これまでに何度も友梨の自宅に侵入していた。

友梨の自宅を調べると、部屋からは小型の隠しカメラが見つかった。朝倉はこのカメラで友梨の日常生活を覗き見ていたようだ。

 上野警部が取調室に入ると、朝倉は虚ろな瞳で彼を見上げる。取り調べを担当していた原刑事が立ち上がって上野に席を譲った。

『お前に聞きたいことがある』
『神田先生のことならもう全部話しましたよ』
『まだ話していないことが残ってるだろう? お前は教え子の倉木理香と交際していたよな?』

朝倉の虚ろな目がわかりやすくキョロキョロと動いた。

『木内愛に聞いたよ。お前が理香と交際していたことも、お前と理香の写真も木内愛に見せてもらった』
『……俺は……俺は何もやってない……』

 木内愛の名前が出て朝倉の身体が小刻みに震える。朝倉は何かに怯えているようだ。

『木内愛は殺される数時間前、ちょうど昼休みの時間帯に自宅の自分のパソコン宛にメールを送っている。これはそのメールをプリントアウトしたものだ』

〈私は朝倉先生を告発します〉

 その見出しで始まったメールに本文はなく、画像データが貼り付けられていた。画像は三番目に殺された倉木理香と朝倉が親しげに写るプリクラやツーショット写真。

理香と朝倉の関係を示す動かぬ証拠だった。
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