早河シリーズ第二幕【金平糖】
 早河の車は中央自動車道を走行中だ。彼は上野との通話を終え、携帯に接続したイヤホンを耳から外す。もうすぐ午前11時になる。

『佐伯の自宅で白骨化した人間の手が見つかったそうだ』
『考えたくはないけどその手ってやっぱり高山美晴のものなんですかね』

助手席の矢野はノートパソコンを開いて画面を睨む。矢野の指がパソコンのキーの上を高速で移動した。

『……ヨッシャ! 有紗ちゃんの携帯のGPS、完全に拾えました。もうすぐ山梨の大月ジャンクション辺り』
『やはり行き先は山梨か』

 万一に備えて、有紗には携帯電話のGPS機能をオンにしておくよう言い含めていた。有紗は早河の言うことを聞き、文句も言わずに設定をオンにしていた。

GPSの微弱な反応を頼りにここまで追いかけ、ついに完全に獲物を捕らえた。

『制限速度ギリギリまで飛ばすぞ』

早河の車が速度を上げた。

      *

 有紗は重たい瞼を上げた。ゴーゴーと風を切るような音が聞こえ、規則的な振動が体に伝わる。

(ここ……どこ?)

次々と流れる景色が視界に飛び込んでくる。

(車の中? ああ、そっか、私……)


『おはよう』

 右隣で男の声がして有紗はビクッと肩を震わせた。

「佐伯先生……?」

 今朝、なぎさの家を出て四谷三丁目駅に向かっていた途中。駅を目前にして佐伯洋介に声をかけられた。

なぜ彼がこんな所にいるのか多少の疑問は湧いた。学校まで送るよう早河に頼まれたと佐伯は言い、早河がそう言うのならと有紗は何の迷いもなく佐伯の車に乗り込んだ。

 車内で彼に渡された水筒のコップにはコーンスープが入っていた。有紗はスープを飲み、その後急に襲われた眠気に堪えられず瞼を閉じた。

そして今。どう見ても外を流れる景色は東京ではない。この景色は前にどこかで見たことがある。
車窓から見えるあの店もあの道も、有紗は知っていた。

(ここ、山梨だ。お祖母ちゃんの家に行く時に通った道)

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