御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
梨果が何食わぬ顔で約束を反故にしようとするので、さすがに苛立ちを覚える。
否、梨果は借金をなかったことにしようとしているのではない。見目麗しいキラキラで完璧な天ケ瀬御曹司に、金銭にだらしないことを暴露されたくない一心で、適当に誤魔化そうとしただけかもしれない。
だが美果に梨果の見栄など気にしていられないし、翔相手に虚勢を張られても困る。
「貸したよ。ほら、ちゃんと借用書あるし、お姉ちゃんのサインもあるもの」
だから以前梨果にサインしてもらった借用書を差し出す。
怒った梨果に破り捨てられたりしないよう、今見せているのはカラーコピーしたものだ。だがそれを確認した梨果の表情を見るに、一定の効果はあったように思う。
自分でサインし、自分が就職したときに作った印鑑の押印まである書類を示された梨果が、数秒前にしらばっくれたことも忘れてその場にガタッと立ち上がった。
「期限がこんなに早いなんて聞いてない!」
「でも借用書にちゃんと書いてあるよ?」
憤怒する梨果を目の前にしても、美果は至って冷静だった。
本当は梨果を怒らせることがちょっぴり怖い気持ちもあった。だが隣に座って成り行きを見守る翔がずっと美果の手を握っていてくれるので、姉の態度に怯みそうになる気持ちをどうにか奮い立たせてくれる。
「ウソ……! 今月末まで……!?」
誠人が作ってくれた借用書のひな形は、せっかちな人には注意が必要な仕様だった。