御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
実はこの借用書、返済期限を何月何日までと記入する欄がない代わりに、用紙の右上に契約を交わした日付を記入し、数行ほどの文章の中に『翌月の末日までに全額返済する』と記されている。つまり先月貸したお金は今月末までに返済することを約束する文面なのだ。
それをよく確認せずに契約を交わしてしまった梨果だが、こうして書面として残っている以上梨果は期日までに借りた金銭を返す義務がある。それを拒否し続ければ、いくら相手が姉妹でも法の番人の世話になるかもしれないのだ。
下唇を噛んで美果を睨む梨果だったが、彼女はすぐに作戦を変えることにしたらしい。くるりと表情を変えると、それまで黙って様子を見ていた翔にすり寄り始める。
「ね、翔さん……私、美果がいじわるするから困ってるの」
甘い声を出して翔に哀願する梨果に、クラリと目眩を覚えてしまう。
つい先ほど、翔自ら美果と婚約していると明確に告げたはずだ。ならば美果と翔が愛人関係などではないことは把握しているはずなのに、妹の婚約者だと名乗った相手に堂々と色目を使う。
発想が理解できない。なんだかだんだん、絶対に分かり合えない宇宙人と会話をしている気分にすらなってくる。
「私は美果の自由を奪わないようずっと遠くから見守ってあげてたのに、美果は受けた恩を理解できないみたい」
さらに信じられないデタラメばかりを口にする。『美果の自由を奪わないように』『遠くから見守ってあげてた』などもちろんまったくの嘘だ。美果の辛い思いを顧みたことなんて一度もないのに、それが家族愛の証であるような言い方をする。