御曹司さま、これは溺愛契約ですか?
美果は、こうなるのが嫌だった。
こんな風に変わってしまった梨果を、こんなにも恥知らずな振る舞いをする姉との関係を、翔に改めて認識されるのが嫌で嫌でたまらなかった。
そしてその梨果を見つめる今の自分が、きっとひどい顔をしていることも。
思わずサッと顔を背ける。翔に顔を見られないように……と思ったが、美果の挙動に気づいた翔は、握っていた手をさらに強く握りしめてきた。
「翔さんみたいなかっこよくて素敵な人には、美果みたいないじわるな子は似合わないと思うの。だから……」
「私の妻を侮辱するのは、やめていただけますか」
なおも続く梨果のありえない主張に対し、翔が突然話を中断させてばっさりと切り捨てる。
その声の冷ややかさに、隣で聞いている美果ですら、ひぇっと細い声が出そうになる。
「美果は優しくて聡明な人です。私は美果の内面に惹かれて一緒になろうと決めました。私の最愛の人を悪く言うつもりなら、例え姉であってもあなたを許しません」
「……っ」
キラキラ御曹司で完璧な王子様の皮を被った余所行きの翔は、一人称が『私』で、語る口調もすべて敬語である。
しかし天ケ瀬翔という人物は、むしろその姿の方が怖いと思う。
鋭い声と冷めた表情で淡々と語る様子と真正面から向き合うと、目に見えない圧力を感じて肌がびりびりと痛むほど。これが美果に向けられるときは、まったく同じ台詞であっても甘くとろけるほどに柔らかく温かい印象なのに。