【Quintet】
『……君は沙羅との結婚が不満かね?』

 表情を一切変えない栄吉は怒っているのか微笑しているのかもわからない。

『そうではありません。僕は沙羅さんを愛しています。ですが家のために沙羅さんと結婚はできません。沙羅さんには彼女が本当に愛している人と結婚して欲しいと思っています』

 星夜は本心を口にした。沙羅には自由に生きて欲しい。家に縛られずに自由に生きて、本当に好きな人と結婚して欲しい。
家に縛られるのは自分だけで充分だ。

『沙羅と結婚すれば、しばらくは音楽活動を続けられるという話ではなかったかな? 婚約を破談にすれば君はすぐさま音楽活動を辞めてお父上の跡を継ぐことになるが』
『音楽活動を辞める覚悟はできています』
『わざわざ自由の道を捨ててまで沙羅を守りたいと?』
『はい。沙羅さんは僕にとって大切な人です。僕の自由のために彼女の自由を犠牲にはできません』
「お話の途中で申し訳ありません。お祖父様、私からもお話があります」

 星夜と栄吉のやりとりに割って入ったのは沙羅だ。栄吉は鋭い眼光を彼女に向けた。

栄吉と睨み合いを続けていた星夜の心臓は激しく動いている。気を抜くと栄吉の威圧感に気圧されそうで、背中には冷や汗が流れていた。

『なんだ沙羅。お前もこの婚約が不満か?』
「はい。ワガママを承知で申します。星夜さんとの婚約のお話に関係なく、葉山と結城家の繋がりを築く手段をお考えいただけませんか?」
『……つまりお前と星夜くんの結婚がなくとも葉山家がYUUKIインターナショナルの援助をしろと?』

 沙羅は栄吉を真っ向から見返した。沙羅はこの男が嫌いだ。
威圧的で人を手駒としか思わないこの男の瞳が嫌いだ。
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