【Quintet】
 車を降りた星夜は〈Sky Blue〉の工場を目指して歩いた。Sky Blue、通称SBは国内では有名なジーンズブランド。
ここで製造されたジーンズはSBデニムと呼ばれている。

(さぁて……誰に呼び出して、も、ら、お、う、か、な)

突然の訪問だ。もちろん純夜にアポはとっていない。彼の仕事の邪魔をしない程度に少し話せればそれでいい。

 工場の門は開いている。敷地内に入って辺りを見回すと、エプロンをつけた中年女性の二人組を見つけた。

『すみません……』
「はい。……えっ? 結城くん?」

日陰に座ってお茶を飲む女性二人は星夜の顔を見て驚いていた。純夜と同じ顔をした別人が突然現れたら、双子だと知らない人間は驚くだろう。

『はじめまして。こちらで働いている結城純夜の弟の星夜です』
「結城くんの弟さん?」
「へぇ、よく似ているのねぇ! イケメン兄弟じゃないの!」
『僕達双子なんです。兄がいつもお世話になっております。これ、東京の名物です。皆さんで召し上がってください』

 東京駅で購入した東京名物の茶菓子を女性達は嬉々として受け取る。東京の名物も最近はネット通販でいくらでも買えるが、こういうものは気持ちが大切だ。

「ありがとうっ! お兄さんに会いに東京からいらしたの?」
『はい。でも兄には僕が会いに来ることは内緒で……。申し訳ありませんが兄を呼んで来ていただけないでしょうか?』

迷子の子犬のようにしょぼくれた様子を見せれば、女性二人はすぐに純夜を呼んでくると言って工場に入っていった。
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