【Quintet】
 すぐ近くに二人がいる状況を考えると口移しでアイスはもらえない。

『落ち込むなよ。俺と口移しするのが嫌なわけ?』
「そうじゃないけど……。ひとくちくらいくれたって……」
『ふぅん。そうじゃないんだ?』

またしても撃沈。誘導尋問に引っ掛かった単純な自分を叱りたい。
今日、初めて笑顔を見せた海斗はラムレーズンアイスをすくったスプーンを沙羅に向けた。

『食べさせてやるよ。口開けて』

 素直に従った沙羅の口の中にラムレーズン味のアイスが運ばれる。海斗に食べさせてもらったアイスはレーズンが甘酸っぱい大人の味だ。

海斗が熱を出した時は彼におかゆを食べさせた。今度は逆だ。ねだったのは自分なのに、彼と間接キスをしてしまった。

『見ぃーちゃった、見ぃーちゃった』

 二列目の扉と運転席の扉が同時に開いて晴と悠真が乗り込んできた。

『海斗にアイスあーんしてもらったの?』
「えっ! だから……! 海斗が食べてるヤツも食べたかったなぁって……幻の味だから……」

 しどろもどろになる沙羅をからかう晴と平然と澄ましている悠真。沙羅が運転席の悠真をチラリと見ると、車内のミラー越しに目が合った。
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