【Quintet】
 一階に降り立った悠真はロビーのソファーにいる白いワンピースの女を見つけた。

『沙羅?』

ソファーに座っていたのは沙羅だ。岡山の観光案内の冊子を読んでいた彼女が顔を上げる。

『こんな所でどうした?』
「部屋でひとりでいるのも退屈で……。悠真は出掛けるの?」
『下のバーで一杯やろうと思って。……沙羅も行く? 少しは飲めるようになっただろ?』

 5月の20歳の誕生日に飲酒を解禁した沙羅はまだバーに行った経験はない。ひとりで行くには怖いイメージのあるバーも、悠真と二人なら行ける気がした。

 地下に続く細い階段は秘密の部屋への入り口。好奇心と不安がない交ぜの未知の世界は、日々の喧騒を忘れさせてくれる異空間だ。

近付いてきた店員にカウンターかテーブルか問われた悠真は迷わずテーブルを指定した。案内された席は二人用の丸テーブル。
店内には悠真と沙羅、高齢の紳士と淑女の客がいた。

「なんか緊張しちゃう……」
『クラシックの演奏会だと思えばいいよ。大きな声を出したり、品のない行動をしなければ大丈夫。何にする?』

 悠真から渡されたメニュー表の酒の名前を見ても沙羅には何がなんだか……。
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