【Quintet】
 次にフェイント攻撃をされたら冷静にさらっとかわすと決めた矢先、まったく冷静になれない。
恋愛偏差値ゼロの沙羅にはこんな時の対処方法がまるで浮かばない。

『沙羅』

 海斗が甘い声で名前を呼ぶと心臓の動きが速まった。闇夜に浮かぶ海斗の整った顔がゆっくり近付いてくる。

そらせない、そらさない。春の夜風と共に優しく重なる唇。
二人は触れるだけのキスをした。

「……えっと……」

 今のはなに? と聞こうとしても海斗は無言で手を繋いで歩いている。自分の身に起きた出来事を改めて理解した沙羅はパニックに陥っている。

恋人でもない同居人と人生初めてのキスをしてしまった。
それも海斗と。“あの”海斗と。

 星夜には誘惑まがいの抱擁をされ、海斗とはファーストキスをしてしまい、今日は一体何の日?
今日のおうし座の星座ランキングは何位? 厄日? ラッキーディ?

 終始、会話もなくマンションに帰った沙羅と海斗は静まり返る自宅に首を傾げた。

「ただいまー。……星夜?』

リビングに星夜の姿はない。

「部屋かな?」
『……まさか』

 ハッとして何かを悟った海斗は階段を駆け上がった。沙羅も海斗を追って階段を上がると海斗が二階の廊下で立ち尽くしている。
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