【Quintet】
 ──“俺は自由で伸び伸びとしてる星夜が羨ましいよ。俺も兄じゃなくて弟に生まれたかった”──

 悲しみに溢れた瞳をして純夜はそう言った。
だけど星夜は純夜が羨ましかった。“必要とされている”純夜が羨ましかった。

無い物ねだりの兄弟はいつから想いがすれ違ってしまったんだろう。

        *

4月24日(Fri)

 目黒区青葉台の自宅で迎える朝の目覚めは最悪だった。寝酒にと飲んだアルコールがいけなかった。頭が重い。

 星夜が母親とフランスで過ごしていたのは9歳から13歳までの4年間。母方の実家があるフランスの田舎町での生活は気楽で楽しかった。

二階の部屋から見える緑色の山脈、葡萄畑、色とりどりの花達、木のぬくもりの家。母が作ったレモネードを飲みながら庭にキャンバスを立てて思うままに絵を描いていた。

あの頃と同じくらい楽しい生活が渋谷のマンションでの沙羅達との生活だった。沙羅達がいる家が星夜の家。
こんなところ家じゃない。ここは牢獄だ。
息子を道具としてしか見ない父親が支配する世界だ。

 真っ白なテーブルクロスが敷かれたテーブルに用意された朝食。一流シェフの料理も星夜には味気なく感じる。

どんなに腕のいい料理人の料理よりも沙羅が作る家庭料理が一番だ。沙羅の料理には彼女の心がこもっているから。

『仕事が終わったら連絡しなさい。迎えに行かせる』
『はい』

大きなテーブルでは父親と向かい合っても距離は遠い。沙羅の家で五人で囲む食卓とは大違いだ。

『29日は休みが取れているんだろうな?』
『はい』

 マネージャーの不破にスケジュール調整を頼んで無理やり休みにしてもらった4月29日は星夜の23回目の誕生日。その日に星夜の自由は終わりを迎える。
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