【Quintet】
 部屋の中で立ち尽くす星夜の身体に沙羅が抱きついた。彼女の小さな身体は震えている。

『……沙羅?』
「怖かった。昨日星夜が急にいなくなっちゃって、もう星夜に会えなくなるんじゃないかって……」
『ごめんな。驚いたよな』

沙羅の黒目がちの瞳に溜まった大粒の涙が溢れていく。先ほど結城に向けていた冷めた瞳ではなく、星夜のよく知る優しくて愛らしい瞳だ。

「UN-SWAYED抜けてお父さんの会社継ぐからマンションを出て行ったの?」
『出て行ってはないよ。色々準備もあるし実家いた方が都合がいいから今はこっちにいるだけ』
「ホントに? また一緒に暮らせるようになる?」
『ああ。でもその前に沙羅との婚約のこと、なんとかしないとな。とりあえず座ろ』

 部屋のソファーに沙羅を座らせ、顔を涙で濡らした沙羅にティッシュを渡す。沙羅は恥ずかしげに鼻を鳴らして目元の雫を拭った。

『沙羅はどうしたい? 俺と結婚するのは嫌?』
「それは……その……」

 赤い顔をして潤んだ瞳の沙羅を見ていると必死で封じ込めていた想いが溢れ出す。鬼畜な父親の息子の自分もやはり鬼畜なのかもしれない。
もう、気持ちを茶化すのは止めよう。

『こうなったら正直に言うよ。俺は沙羅となら結婚してもいい。……好きだよ』

 沙羅と結婚してバンドを続けられたとしても、どのみちUN-SWAYEDは抜ける。自分は裏切り者だから。

自由を失い、父親のマリオネットとして生きる道に沙羅がいてくれるなら、マリオネットの人生も悪くないと思えた。

ごめん、海斗。
ごめん、悠真。
自ら裏切りの道を選んだ友人を許さないでくれ。

 驚きに染まる沙羅の唇に、星夜は唇を重ねた。
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