【Quintet】
 沙羅を自室に残して星夜は父親の書斎に向かった。重厚な扉をノックして名を名乗ると『入りなさい』と中で声がした。
星夜が書斎に入っても結城冬夜はパソコンを見つめたままだ。息子の顔を見ようともしない。

『沙羅さんはどうしている?』
『俺の部屋にいます』
『ずいぶん仲が良いな。その様子だと沙羅さんが嫁いですぐにでも跡取りが出来そうだ』

 これが女を子どもを産む道具としか思わない男の発言だ。だから純夜と星夜の母親は心を病んだ。
妻を道具としか思わない夫に失望したのだ。

『今夜は渋谷の家に帰ってもいいですか? バンドのメンバーとこれからのことを話し合いたいので』
『沙羅さんと結婚するならバンドは辞めなくていいと言ったはずだが』
『沙羅と結婚するからこそ、俺はバンドを辞めるんですよ。理由を言ったところであなたにはわからないでしょうけどね』

結城は星夜を数秒間見据えた後、鼻で笑った。

『28日の夜にこちらに戻ってくればいい。それまでは好きにしなさい』

 その後一言も言葉を交わさずに父親の書斎を出た星夜は二階の自室に戻った。使用人に用意させたカモミールティーを美味しそうに飲む沙羅の笑顔に心が疼く。

『今日は俺も一緒にマンション帰るから』
「一緒に帰れるの?」
『うん。それ飲み終わったら俺達の家に帰ろう』

 好きな気持ちは強まるばかり。この感情を抱くだけでも悠真と海斗への裏切りだ。
父の前では沙羅と結婚すると口に出したが星夜は迷っていた。
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