【Quintet】
 自室を出てリビングに向かうと、すでに支度を済ませた星夜が待っていた。長い脚を組んでソファーに腰掛けている彼を一目見た沙羅は赤面した。

『沙羅どうした?』
「えっ……あの……」

 狼狽に目を泳がせる沙羅の目の前にシックなスーツ姿の星夜が現れる。

 シワのないネイビーのワイシャツに合わせたえんじ色のネクタイ、お洒落にヘアセットされた茶色い髪、ふわりと薫るのは普段つけている香水の匂いとは雰囲気の違う、パウダリーで優しい香りだ。

『おー? スーツでばっちりキメてる俺に見惚れてた?』
「ち、違うよっ!」
『嘘つけ。あーあ、顔こんなに赤くして。やっぱり沙羅をお嫁さんにくださいって言っちゃおうかなー』

星夜に耳元で囁かれて心臓が跳ねた。こちらを見つめる彼の瞳は今日も綺麗なブルーグレー。

「またそんなこと言って。断りにいくのに……」
『冗談。沙羅を俺だけのものにしたいのは本気だけどね』

 婚約の話が出てからは星夜のフェイント攻撃が過激になった気がする。心なしか彼が醸し出す色気も倍増して見える。

最近読んだファッション誌の読者アンケートによれば、スーツを着ると老ける男と色っぽくなる男と二つに分かれるらしい。
ならば星夜は間違いなく色っぽくなる男だ。
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