【Quintet】
『お前はフランスで母さんと気ままに暮らせて羨ましい、俺達は双子なのに兄と弟なだけでこんなに人生変わるなら俺も弟に生まれたかった……ってよく純夜に言われたよ。純夜は親父からも結城家からも自由になりたくて家出したんだ』
「純夜さんがいなくなっちゃったから星夜が跡継ぎに?」
『そう。3年前の俺達がハタチの誕生日を迎える直前に純夜は家を出た。親父は純夜を捜そうともしなかった。息子が家出したのに、逃げ出すような臆病者は必要ないって言ったんだ。純夜がいないなら必然的に跡継ぎは俺に決まり、俺は純夜が強いられてきた道を歩くはめになった』

 悠真が、純夜がいなくなったことで星夜の人生にも影響が出たと言った意味がようやくわかった。
それまで自由でいた星夜の自由が奪われようとしているのだ。

「星夜は本当にそれでいいの? お父さんの言いなりになって、バンドも辞めることになるんだよ?」
『純夜は自由な俺が羨ましいって言ったけど、俺は純夜が羨ましかったんだ。跡継ぎは純夜って決まってたから親父は最初から俺に期待してなかった。母さんが俺をフランスに一緒に連れて行くって言った時も反対しないし、純夜には大学で経営学を学ばせたのに俺が美大に通うのにも何も言わない。親父は俺には無関心で親父が必要とするのは純夜だけ……。親父にとって俺は必要ないんだなって思ってた』

 溜息をついて苦笑いする星夜の手が沙羅の手に伸びる。重なった手と手。ベースを奏でる星夜の手は大きくて温かい手だ。

『純夜が家出して、20年間俺に無関心だったくせに俺を跡継ぎにしようとする親父には心底ムカついてる。都合良すぎだろって。あんな父親の言うなりにはならねぇと今でも思ってるさ。だけど逆らえないのはどうしてだろうな』

視線を合わせたブルーグレーの瞳は哀しげな濡れた色。
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