最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
「その……付き合うかどうかは、今ここでは決められません」
「あ、ああ。そ、そうだよな。ごめん……。じ、じゃあ、一緒にお茶をしても?」
「それ……ぐらいなら」
「やった!」

 嬉しそうにガッツポーズをする姿が、なんだか微笑ましい。ついついと私の頬に触れるアルは今日も可愛い。愛くるしい蹄にモフモフしたフォルム。そんなアルは気遣い屋さんだ。

「あるは、おひるね、してくる」
「私から離れたら危ないでしょう。寝るのならほら抱っこするからおいで」
「でも……」
「アル、この子も一緒でもいいですか?」
「もちろん! いつも一緒に居るけれど凄く仲良しなんだな」
「ええ」

 カフェ店員さんは、リュウカと名乗った。彼も過去は何も覚えていないのだとか。やっぱりこの楽園と呼ばれる都市に住んでいる人の殆どは、過去を置いてきてしまった人たちのようだ。置いてきたのか、置いてくるしかなかったのか──はそれぞれだけれど。

 リュウカさんは気さくで面白くて、良い人で、定期的にカフェに来ていた私が気になったのだとか。それはとても穏やかで、楽しい時間だった。
 帰り際に真剣に交際を考えてと言われて、胸がドキドキした。誰かに好きだと言って貰えることが嬉しくて──嬉しいはずなのに、何かが違う?
 胸の奥にある違和感。
 手を繋ぎたいと言われて、少しだけ繋いだけれど……歩く歩幅も、速度も私に合わせてくれるのに、何か変。
 私の中の私が叫んでいるような、落ち着かない感じ。
 楽しい時間だったけれど、リュウカさんに「お付き合いはできない」と断った。それからがすごかった。

「一目見た時から好きでした!」
「どうか結婚を前提に付き合ってください」
「好きです! どうか自分の手を取っていただけないでしょうか」
「笑顔がとってもステキだと思っていました。付き合ってください」
「お茶友からでもいいので是非!」

 突然の告白ラッシュ。
 お気に入りのカフェに通っている間に気になっていたのだとか。みんなとても素敵な人たちだった。でも、たぶんこれは私の問題なのだと思う。
 自室に戻ってベッドに倒れ込むと、アルは心配そうに引っ付いてきた。可愛い。

「でぃあんな、だいじょうぶ?」
「ええ。……人生のうちにモテ期は三回あるらしいから、その貴重な一回を噛みしめている所よ」
「でぃあんなは、いつも、もてもて」
「そう? ふふっ、ありがとう」

 アルは「ほんとのこと」と言っているが、この都市に来てからこんな風に告白されるのは初めてなのだ。以前の私は恋愛や誰かと繋がることを無意識に抑えていたのかもしれない。
 変化があったとしたら、夢に出てくる彼を思うようになったから?

「でぃあんなは、すきなひと、いないの?」
「んんー。実はね、気になる人はいないことはないの」
「!?」

 アルはふよふよ浮かんでいたのに、途端に固まってベッドに落ちた。つんつんしてみたけれど、何だか震えている。
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