最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
「実はね、夢の中に出てくる人と居るのが凄く好きなの。たぶん、紫の髪か瞳で、だいたいはカフェで待ち合わせなのだけれど『遅れてごめん』ってやってくるの。で、私は『いいわよ』って笑って答えて、季節限定のスイーツを堪能して、手を繋いでデートするのよ」
「ゆめ」
「そう。……でも、もしかしたら、私の過去の……幸せだった頃を捏造しているのかも。あんなに幸せだったら、私はきっとここに居なかっただろうから」
「でぃあんな」
アルは私を慰めようとギュッと抱きついてくる。私はそんなアルの背中に手を回して抱きしめ返した。とても温かくて安心する。
過去は怖い。
でもようやく心に持つことができるようになった今なら。新しい恋をするにしても、私は一度自分と向き合うべきなのかもしれない。
良いなと思う人がいても、心が違うという。違和感や形容し難い感情と折り合いをつけたい……。
そう思った。
思えるようになった。
そしてそう思えるほど心が穏やかで、余裕が持てたのは、アルが傍にいてくれたからだわ。
「今なら……向き合っても、アルが傍にいてくれるでしょう」
「でぃあんな。うん、ずっとそばにいる」
「ありがとう」
***
白い鳩が青空を飛翔する。
淡い色の世界。
周りを見渡しても誰とも目が合わないし、見られている感じはない。
ヒソヒソする声もない。
その向こうでは花嫁と花婿が見えた。誰からも祝福されて、幸せそうで、微笑ましい。たくさんの花で作られたミニブーケを花嫁が宙に放り投げたけれど、風に乗ってオレンジ色の薔薇が私の元に届く。
「次はディアンナの番だ」
「──がプロポーズしてくれるってことですか?」
「……ここは泡沫の夢。もしかしたら、ありえたかもしれない世界。僕が夢見た君との日々だから、僕がそう望めばきっと君は応えてくれるのだろう。でも現実では……君は僕を許さないし、許さなくて良い。僕はそれだけ君を追い詰めてしまったのだから」
「私を?」
夢なのになんだかリアルで、不思議な感覚だわ。いつもと雰囲気が、何か違う。
「僕は君の心を守り切れなかった」
「でも守ろうとしてくださったのでしょう?」
「それでも、結果的に君を追い詰めた」
「でも貴方は私に会いに来てくれた」
「──っ」
そうだ。彼は──いつだったか私を探しに会いに来てくれた。
どうして忘れていたのかしら?
どうしてあの時、逃げてしまったの?
怖かった。あの時は今の生活を壊したくなくて、過去が怖いもので受け入れることが怖くて、嫌で、だから──逃げた。
私が逃げたことで、彼を追い詰めてしまった。傷つけた。私も傷ついたけれど、でも私も彼を深く傷つけてしまったのは事実。
「貴方と夢の中で出会うまでは、怖い夢ばかり見ていたわ。誰かに見られている、罵られている宵闇の世界。……それを変えたのは、貴方が夢の中に現れてから」
「これは僕の夢。僕が望んだ願望だ」
「違う。私と……アルフレッド様との夢……魂が重なっているんだわ。だって……こうやって触れられる」
「ディアンナ」