最愛の婚約者の邪魔にしかならないので、過去ごと捨てることにしました
ボロボロと泣きだすアルフレッド様に歩み寄る。夢の終わりが近いのだろう。
私はアルフレッド様に抱きついた。ガッシリとした体で、抱きしめられて、そうだ。この人だと実感する。
ゆっくりと記憶が私の中に満ちていく。そしてアルが誰なのかも知った。
「アルはアルフレッド様だったのですね」
「……君は僕を見て怖がっていたけど、どんな形であれ君の傍にいたかった。君と、ディアンナと一緒にいたいと願ってしまったんだ」
記憶の欠片が花開いていく。それは幸せな記憶だけではなく苦々しい、傷ついた記憶もあった。
でも──辛くて、苦しくて、逃げ場のなかった世界だったけれど、アルフレッド様はここまで私に会いに来てくれた。
今だからこそ彼の想いを、私が受け入れられる。
アルフレッド様に何があったのか。何を考えて動いていたのか。あの後なにがあったのか。言い訳も、逃げもせずに全ての罪を受けいれて、処刑台に立ったアルフレッド様の記憶に触れた時、心臓が潰れそうになった。
私はアルフレッド様と婚約解消されたことにショックで、立ち直れなくて、それが悲しくて、苦しくて……。あの状況で逃げ場はなかった。もしあの時、逃げていなければ、私の心は壊れていただろう。
でも、その前に……もう一度だけアルフレッド様と話を、私の本音を言えていたら──。
私を迎えに来てくれた時、ほんの少しでも歩み寄れていれば──。
こんなに遠回りして、アルフレッド様を傷つけずにすんだんじゃないだろうか。
「ごめんなさい、アルフレッド様。私が……もっと話をしていたら……」
「ディアンナ。もしかして記憶が?」
「ええ。夢の中でアルフレッド様との逢瀬の日々が悪夢を取り払ってくれた。過去の記憶が全て辛くて、苦しいものじゃないって……示してくれたから……。もっと早くそのことに気付いていれば……。ううん、アルフレッド様が迎えに来てくれた時に、もっと歩み寄っていたら……」
「ディアンナ。謝るのは僕のほうだ。僕は……っ、君に無理をさせて、我慢ばかりで……君と再会した時だって、甘えてしまった。もっと君と話すべきだったのに、僕は勝手に結論を出してそれが最善だと思い込んだ。ごめん、ごめんね。ディアンナ」
お互いに謝り合戦をして、泣き合って、今までの気持ちを口にし合う。
オレンジ色の薔薇は花びらとなって空を舞い、空から小さな花びら……金木犀に変わった。鼻孔を擽る懐かしい香り。
アルフレッド様と出会ったのは、金木犀のある中庭だったわ。それから金木犀の香りがすきになって、香水を買ったっけ。
そんな些細な記憶も、思い出も忘れていた。私は全部置いてきてしまった。なんて薄情で酷い女だろう。それでもアルフレッド様は私の傍にいることを選んでくれたのね。
「全部なかったことにして、身軽になっても……違和感が増えていって……大事だったこと、大切にしていた思い出も全部、アルフレッド様が一つ一つ夢の中で拾ってくださったから……とっても遠回りしたけれど、私は思い出すことができたの」
「君が幸せであってほしい。そう願いながらも、自己満足で君の傍にそれでも居たいと思っていたけれど、君の傍から離れるのを諦めなくてよかった」
「アルフレッド様」
そういうところが好きだ。私の手を掴んで、泣きながら傍にいるって言った時から、貴方は私の王子様だった。
「ディアンナ、愛している」
「私の答えは……夢が醒めてから直接言いますね」
そう言って唇を重ねた。もう答えたようなものだけれど。
***
夢が醒める。
カーテンの隙間から漏れた陽射しが眩しくて目を覚ます。すぐ傍にはスヤスヤと眠っている吐息が聞こえてくる。モフモフで癒されていたフォルムから私を抱きしめる腕と固い胸板、彫刻のような整った顔立ち。艶のある長い黒髪、寝顔はあどけないのね。
「……ディアンナ」
「起きたら過去の話と、未来の話をしましょう」
END


