国に尽くして200年、追放されたので隣国の大賢者様に弟子入りしました
マーティス・フォン・ブルグント。
ニーナは彼を一度だけ見たことがある。

何年か前、ルティシア国王の生誕祭に参列していたのだ。

ニーナは慌てて跪き、頭を下げた。

「大丈夫だよニーナ。頭を上げて」

フェルディナンドが申し訳なさそうに手を差し伸べてくれている。

(兄が皇太子、ということは……)

ニーナは弱々しく口を開いた。

「説明を、お願いしても?」

フェルディナンドがきまりの悪そうな顔で頷く。

「……もちろん。僕はフェルディナンド・フォン・ブルグント。セレンテーゼ帝国の皇子、だった」
「だった? 今は違うの、ですか?」
「今は違う。すでに皇室からは離脱した。だから……いつもみたいに話してほしい」
「そう……」

突然の告白にニーナは動揺していた。
ともに生活していた人が、皇子だったのだから。

「話してなかったの? それはフェルディナンドが悪いよー。ニーナちゃんの正体は知っていたのに、フェアじゃないでしょ」

ソファーで二人のやりとりを見ていたマーティスが意外そうに口を挟む。

「俺はニーナちゃんを見たことがあるよ。聖女様って本当に何年たっても年をとらないんだね。昔と全然変わらない」

昔を懐かしむように目を閉じたマーティスからは、悪意を感じなかった。


< 43 / 175 >

この作品をシェア

pagetop