俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
表情をほころばせた蒼真が振り返ったと同時に、なにか聞き漏らしているような気がしていたことなど、すっかり忘れてしまった。







(side 蒼真)


規則的な寝息をたてている里穂の寝顔を眺めながら、蒼真は何度目かのため息を吐き出した。

「スタートで間違えたってことか」

苦笑交じりの声が、エアコンの音に交じって薄暗い寝室に響く。

冷房が得意じゃない里穂は、夏でも厚手のパジャマを着ているらしく、今も杏が結婚祝いにと用意したシルクのパジャマを着ている。

前面のボタンを首元まできっちりと留め、上着は長袖、ズボンの裾はくるぶし丈という露出の少なさ。

今でこそ蒼真にパジャマ姿を見られることに慣れたようだが、同居開始直後、とくに初日はかなり緊張し照れていた。

それに加えて寝室がひとつだと知った時の、一瞬で全身を赤く染め、恥じらうように顔を伏せた里穂の小刻みに震えていた背中。

結婚を決めてすぐ、恋愛経験はゼロだと伝えられていたが、二十九歳という年齢を考えても、そこまで初心だとは思ってもみなかった。

『寝室を分けると家族が来た時に怪しまれる。だから同じベッドで寝ることに慣れてもらえないか? もちろん手は出さない』

この結婚への笹原からの疑惑を払拭するためにも寝室をひとつにすると初めから決めていたが、まさかそれを頼み込むことになるとは、想定外だった。

便宜的な妻。

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