俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
悔しげに舌打ちをした後、小山は乱暴な足取りで店を出て行った。

「なんだ? 忙しい兄ちゃんだな」

慌ただしく出て行った小山を見送りながら、客がビールを手に笑っている。

ここでのやり取りを聞かれていなかったようだと里穂は安心する。

「桐生さん、ありがとうございました」

里穂はカウンター越しに深々と頭を下げた。

本当ならこうなる前に自分が小山と話をつけておくべきだったのだ。

「気にしないで下さい。俺がいる時でよかった。それより、他からも話があるんですか?」

桐生の固い声に、里穂はおずおずとうなずいた。

「買い取りとか、建て直しとか、いくつかいただいていますけど、全部お断りしています。確かに古くて手を入れるべきだってわかってるんですけど、なかなか難しくて」

さすがに経済的な負担が大きすぎるとは言えず、言葉を濁した。

「そういうことか」
 
桐生は改めて店の中をぐるりと眺め、考え込んでいる。

「面倒なことがあれば言って下さい。力になれることもあると思います」

「ありがとうございます。でも、家族でなんとか考えてみます」
 
とはいえさっき小山に対して毅然と向き合えたのは、桐生が見守ってくれているという安心感があったからだ。

視界の片隅に見える桐生の存在が、どれほど心強かったかを、小山が店から出ていった途端、実感した。

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