俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
「あ、冷めちゃいましたよね。すぐに新しいのをお持ちしますね」
 
鰆もご飯もすべてすっかり冷めているはずだ。

「いや、このままいただきます」

「でも」

「冷めても十分うまいから、気にしなくていいですよ」

桐生はその言葉通り、ときおり目を細め料理を味わいながら箸を進めている。

いつもながらの気持ちのいい食べっぷりを眺めながら、里穂はようやく気持ちが落ち着いていくのを感じた。

やはり小山が店に現れてから、緊張していたようだ。

「そういえば、時間は大丈夫ですか?」

これから大阪だと思い出し、里穂は慌てて声をかけた。

「これをいただいたら出るので大丈夫です。それより里穂さんの方こそ気をつけた方がいい。さっきの営業マンはもう顔を出さないと思うが、他から強引に押しかけられる可能性もある」

桐生の真剣な眼差しに、里穂はうなずいた。

小山に向き合っていた時も感じたが、桐生の存在はとても心強い。

見守ってもらえるだけで落ち着き、気遣いの言葉をかけられただけで安心できる。

それからしばらくして食事を終えた桐生は、恭太郞との待ち合わせに向かった。

駅へと急ぐ桐生の背中を店を出て見送りながら、里穂は感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げた。

そしてその日以降、小山が店に現われることはなかった。

 

「いつ見ても、素敵なビル……」


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