俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
里穂は二十階建ての杏華堂の本社ビルを見上げ、つぶやいた。
国内有数のオフィス街のど真ん中、周囲に立派なビルなら数多くあるが、杏華堂という社名にぴったりの杏色の外壁は他になく、かなり目立っている。

現社長が後を継ぐ際にそれまでの社名から現在の杏華堂に変更したらしいが、妻の杏という名前を冠した社名には社長の愛妻ぶりが反映されていると、当時はかなりの話題になったそうだ。

「お姉ちゃんっ」
 
焦りを滲ませた声に振り返ると、ビルの入口から雫が飛び出してきた。 

ベージュのリボンブラウスと淡いピンクのパンツ。

四月に入ったばかりのこの季節にぴったりの春らしい装いだ。

「わざわざごめんね」
 
雫は里穂のそばに駆け寄ると、荒い呼吸を整えながら両手を合わせた。

「そんなに急がなくてもいいのに。今日はお店も休みだから時間もあるし」

クスクス笑う里穂に、雫は首を横に振る。

「だからよけいに悪くて。せっかくの休みなのにわざわざ来てもらってごめん」

「いいわよ。それよりこれでいいのよね」

里穂は手にしていたトートバッグから、分厚い冊子を取り出した。

「うん、これ。絶対に今日いるってわかってたのに忘れちゃって、本当に情けない」
 
雫は冊子を受け取り安心したように胸に抱いた。

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