俺の妻に手を出すな~離婚前提なのに、御曹司の独占愛が爆発して~
訳がわからないとばかりに里穂と杏を交互に見やる母親に、佳也子が声をかけた。

「じゃあ、花音ちゃん、行こうか」

里穂は店の奥に用意されているグランドピアノへと足を向けた。

「ママ、ばいばーい」

機嫌よく手を振る花音を、母親がぽかんとした表情で見つめている。

その顔には自身が施したメイクでは隠しきれていない傷がある。

直径五センチほどだろうか、丸く赤みを帯びた痕が、頰に浮き上がっているように見える。

ここに来ているのはきっと、その傷痕に悩んでいるからだ。

頰の傷痕だけでなく、目の下のクマもメイクで隠しきれていない。

忙しい子育てに奮闘し、心身共に負荷がかかっているのかもしれない。

初めてここに来た日の佳也子を思い出して、里穂は胸が痛むのを感じた。

「花音ちゃんは何歳?」

母親が杏との時間を通じて少しでも気が楽になれればと願いながら、里穂は女の子に笑いかけた。

「花音、三歳。うさぎぐみ」

そう言って三本指を立てる愛らしさに、里穂は目を細めた。

「うさぎぐみ? 幼稚園に通ってるの? 楽しい?」

里穂はピアノの近くに並んでいる椅子に女の子を座らせた。

「たのしい。でも、きょうはおやすみ。パパはおしごと」

「そうか。日曜日は幼稚園お休みだもんね。パパがいないと寂しいね……花音ちゃん、ちょっと待ってね」

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