エリートなあなた
約束の時間ぴったりに来社し、部屋へ通されてから早10分が経過している。
いつもは時間前から、この部屋で待ち構えていた課長さんの薄気味悪い笑顔に出迎えられた。
となれば、今日は遅刻の部類ではないかと思う。…決して嫌味などではなく。
するとノック音がドア越しに響き、大きく後ろのドアが開く。立ち上がった私と松岡さんは振り返った。
「…、」
けれど課長と対峙するからと、顔にムリヤリ貼りつけていた笑みはすぐに消える。
予想外の出来事から表情を消す代わりに、視線はただまっすぐその人物を捉えた。
当然というべきなのか。相手も私の顔を見て目を見開いたけれど、それもただの一瞬。
視線はすぐに逸れて隣の松岡さんへと向き、ジャケットからパスケースを取り出した。
「――大変お待たせしまして申し訳ございません。
課長の辰見が席を外しておりますので、代わりに参りました部下の佐々木と申します」
名刺を交換し合った彼らに続いて私も交換し終えると、再び3人で着席となった。