エリートなあなた


担当者と松岡さんが向き合って話をする中、私はその隣で資料などを準備していた。



「辰見課長さんはお忙しいんですね」


聞く人によれば嫌味と分かる聞き方をしても笑顔で帳消しにするのだから、スマイルキラーは抜かりない。



「…いや、そんなことないんですよ。ええと…、ここだけの話にして下さいね?

今日出社してすぐ、…ぎっくり腰になって病院直行したんです」


苦笑まじりにそんな事実を口にするとは、…やっぱり正直さは変わっていないようだ。


「あー、やっぱり色々と忙しいんですね。腰は大事にしないと」


「…本当ですよね、」


一瞬、ニヤリと笑った松岡さんの向かいで溜め息を吐き出す人。苦労の絶えない職場なのだろう、きっと。



ちなみに受け取った名刺はパスケースの上に置いてある。チラリ一瞥すると、試作部・金属部門第2グループの記載が。



――彼の場合は、セクハラ大好きな辰見課長の一件も含まれていると察したけれど。



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