エリートなあなた


エレベーターを1人降りた私はまた裏口を通ってオフィスを抜けると、駅までの道を徒歩で行く。



小走りしたくなる感情を諌めて電車を乗り換えながら、自宅近くにある駅までの道のりは約20分。



本当はオフィスから彼のマンションへ直接行く方が早い。けれどスーツを脱いでお泊り用の荷物を持って行きたいがための手間はまったく気にならない。



いよいよ改札をくぐり抜けると、ゆったりした時間が流れる中を休日の走り出して自宅へ一直線。



これも最寄駅から徒歩10分もかからない立地がゆえ、なせる衝動だろう。



テラスとガーデニングがあたたかい庭に囲まれた、一軒の住宅前のチャイムを鳴らして手で目の前の門扉を押す。しばらく待っていると、玄関のドアが向こうから開かれた。


「ただいま~!」


「おかえりー、早かったのね」


ドアを持ったまま出迎えてくれたのは、顔はおろか声までそっくりだと言われる母。



一人娘の私は日本へ来てからずっと、不自由さと無縁なこの家で呑気に実家暮らしをしている。



「うん、今日は仕事が一段落ついたからねぇ」


急ぎ足で玄関を上がると、バタンとドアの閉まる音を背中で受けつつコートを脱いだ。


家へ上がった途端、室内に蔓延しているとても甘い香りが鼻につく。


「そうなのー、お疲れさま。

今ね、シフォンケーキ作っていたのよー。お茶にしよっか?」


専業主婦の母はお菓子作りが大好きで、素人ながらその腕はかなりもの。



よく天気が良いとお茶会を催しては、お友だちとテラスでお喋りを楽しんでいる人だ。



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