エリートなあなた
思わず口元が緩んでしまった隠すため、またフォークで切り分けたふわふわシフォンを口へ運んで咀嚼する。
「い、言えないって…、ま、さか、不倫してるのー!?」
血相を変えた声色が発した思いもよらないフレーズに、思わず噎せかけてしまった。
向かい席を慌てて見ると、「ぎゃあああ」と雄叫びまで上げた彼女に動揺するばかり。
「真帆ちゃん、…あなた」
ニコニコしていた表情から一転、悲壮感一杯の眼差しを向けられてしまう。
「はぁあああ!?ち、違うわよっ!――彼は結婚していないわ!独身よ独身!
本当にやむを得ない事情があって、…社内では特に秘密にしているのよ。本当よ?
じゃなきゃママに話さないし、私だってこれでも一般的立場や分別はあるつもりよ?――これも弁護士だった“誰かさん”に教育されたからでしょう?」
これでは母の勝手なシナリオが進んでしまう――それが声を荒立てて牽制させた理由だ。
何を隠そう私の母は、父と33歳で結婚するまで弁護士をしていただけあって、その雄弁さは家族の誰よりも凄いため。
「はぁー…何よそういうことね!
いわゆる“オフィス・ラブ”ね?ママを驚かせないでよ!」
「でも、心配掛けるコトはナイから大丈夫だよ!」
ようやく落ち着いた彼女は、2個目のシフォンケーキを食べながらまた笑い始めた。
“オフィスラブ”に苦笑させられたものの、嬉しそうな顔に変わって私も一安心だ。