無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「みどりさんと寛二先生も承知の上で、最初から俺を騙していたのか?」
「はい……」
「……ふざけるなよ」

 眦を吊り上げ、真紘が由惟の腕を掴み上げた。血流が止まってしまいそうなほど強く手首を掴まれる。痛みが骨まで伝わって、軋んでしまいそうだった。
 でも由惟に涙を流す資格はない。真紘を裏切っていた自分には当然の仕打ちだ。

「本物の生田目穂乃花はどこにいる?」
「……知りません。みどりさんも、どこにいるのかわからないと言ってて……」
「それで金で雇われて生田目穂乃花のふりをしていたのか」

 侮蔑が込められた冷笑が投げつけられる。由惟は下唇を噛んで、ただただ真紘の言葉を受け止めた。事実だから否定のしようがない。

「……ごめんなさい」

 真紘が乱暴に由惟の手を離した。まるで害虫にするような仕草に、胸が苦しくなる。

「こんなことまでして金を手に入れて、何をしたかったんだ?遊ぶ金が欲しかったのか?」
「……」

 違う。由惟が身代わりを引き受けたのは、横井の家から出ていくための資金が欲しかったからだ。でもそれを言ったところで何になるだろう。

 過去の自分の身の上を打ち明けたら、真紘の同情は得られるかもしれない。
 だが真紘を裏切り、彼の想いを踏みにじった事実に変わりはないのだ。彼を傷つけた分だけ、自分も傷つくべきだ。その痛みを抱えて生きていくことが、由惟にできる贖罪だ。

 だから、何も言えない。
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