無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
 バックミラー越しに微笑むみどりとは対照的に、真紘は不機嫌そうに腕を組んでそっぽを向いている。外の電灯の光が窓から滑るように飛び込んできて、車内が一瞬だけ明るくなった。その時に見えた真紘の横顔はほんのり赤く色づいていて。もしかして……照れている?

「……財布もスマホも置いたまま家に帰ってないって菅原さんから連絡が来たんだ。それで呑気に学会参加なんてできるわけないだろ」

 ハウスキーパーの菅原から由惟が失踪したことを告げられた真紘は、すぐに帰国して、みどりと協力して由惟の行方を探してくれていたらしい。事故に巻き込まれた可能性を考え、近隣の救急病院に確認して回ったのだと聞いて、とんでもない迷惑をかけてしまったと由惟はおののいた。

 みどりは身代わりを依頼した時に由惟の身辺調査を実施していたようで、由惟の交友関係の狭さは把握されていた。無事ならば、よるべない由惟の居場所として考えられるのは横井の元だけだと推測していたらしい。もっとも由惟が横井たちからどんな扱いを受けていたかも知っていたから、かなり警戒をしていたのだとも聞かされた。

「本当に、無事で良かった」

 ずっとそっぽを向いていた真紘が不意に振り返った。真剣な眼差し。吸い込まれそうなほど美しい色をした黒の双眸には、由惟だけが映っている。
 またこうして彼の瞳に映してもらえる日が来るなんて。嬉しくて、無性に泣きたくなる。

「ありがとうございます……」

 そう言った声はかすかに震えてしまった。座面に投げ出していた手を不意に握られる。まるで応えるように真紘が由惟の手を強く握るので、いっそう涙がこぼれそうになった。
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