無愛想な天才外科医と最高難度の身代わり婚~甘く豹変した旦那様に捕まりました~【職業男子×溺愛大逆転シリーズ】
「そうですね、好きですよ。小さい頃は洋服のデザイナーさんになりたかったですし」

 もっとも、その夢は横井家に引き取られたことで潰えてしまった。高校を卒業すると横井医科工業への就職を余儀なくされ、進学の道は選べなかった。
 
「へぇ。でも大学は普通の四大じゃなかったか?」

 怪訝そうに首を傾げる真紘に、忘れていた今の立場を思い出した。そうだ、今の自分は穂乃花だ。
 由惟は誤魔化すようにヘラっと笑った。
 
「小さい頃の夢ですから。進路は無難に決めました」
「ふーん。こんなに上手いのにもったいないな」

 何気ない一言に、由惟の心が激しく揺さぶられる。

 一体自分はどれほど肯定的な言葉に飢えているんだろう。全くモテない人が、コンビニ店員のビジネススマイルにときめいて勘違いしてしまうのに似ている。

 駆け足になる鼓動を落ち着かせるべく、心臓のあたりを撫でさすった。

(こんなの、社交辞令みたいなものだから……)

 言葉以上の意味を見出したくなる自分を必死に抑えた。
 その時、焦燥を煽るようなアップテンポのサウンドが二人の間に割って入るように響き渡った。

 真紘がすぐに、上着のポケットからスマホを取り出す。スマホの着信音だったらしい。

「はい、成澤です」
『成澤先生!お帰りのところすみません!佐藤さんの容態が急変して……』

 電話の向こうの声がここまで聞こえてくる。ガタンと音を立てて、真紘が椅子から立ち上がった。

「血圧は?」

 真紘の声は真剣味を帯びている。
 真紘の口から飛び出すのは専門用語ばかりで、由惟にはさっぱり理解できない。だが一刻を争う事態であることは察せられる。

 一直線に玄関へと突き進みながら、真紘は廊下に置き去りにされていた鞄を掴んだ。

 由惟も小走りで真紘を見送りに行く。通話を終えた真紘が、靴を履きつつこちらを振り返った。

「病院に戻ることになった。今日はもう帰らない」
「はい。お気をつけて」
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