早河シリーズ第五幕【揚羽蝶】
『なぎさ、2006年のファイルどこにある?』
「2006年は確かこの辺りに……」
なぎさが書棚から2006のラベルが貼られた分厚いパイプ式ファイルを取り出す。
早河はファイルのインデックスから8月のページを探して書類をめくった。
『ああ、やはりそうか。木村さんは3年前に静岡で起きた殺人事件の関係者だったんですね』
『はい。その事件で美月と知り合ったんです』
『この事件の時に、同じペンションに宿泊していた上野と言う刑事を覚えていますか?』
『上野さんですか? 今でも親しくさせてもらっています』
早河となぎさは顔を見合わせた。世間は狭いとはよく言ったものだ。
『上野警部は私の刑事時代の上司なんです。2年前まで私も刑事をしていましてね。木村さんとどこかでお会いしたことがある気がしていたんですが、3年前の事件の時に確かあなたの事情聴取を担当した覚えがあります』
『……ああ! 思い出しました。俺も早河さんとはどこかでお会いしたことがあると思っていたんです。あの事件の時に……』
早河が隼人の事情聴取を担当した3年前の事件は静岡の海沿いの町で起きた。ペンションの泊まり客だった啓徳大学の学生が殺され、さらにカメラマンと小説家の間宮誠治も殺された。
三人の被害者を出した連続殺人事件の犯人は同じペンションに宿泊していた佐藤瞬。
当時高校生だった浅丘美月はペンションオーナーの姪で、佐藤がペンション滞在中に彼と恋仲になってしまった。
逮捕直前に佐藤は美月の目の前で何者かの狙撃を受けて海に転落。海に落ちた遺体の捜索をしたものの、潮の流れの速い地点だったため捜索は早々に打ち切られた。
佐藤の生存の確認ができないまま事件は被疑者死亡の形で幕を閉じる。これが3年前の悲劇。美月にとっては悲恋の白昼夢だ。
(早河シリーズ序章【白昼夢】参照)
『私もまさかこんな形で木村さんと再会するとは思いませんでした。あの時の高校生が美月さんでしたか。……なぎさ、ここに友達の加藤さんの名前もあるぞ』
早河はなぎさにファイルを見せて事件関係者の項目を指差した。浅丘美月、木村隼人の他に加藤麻衣子の名もある。
事件の担当刑事欄には早河、上野、小山真紀、原昌也、なぎさの兄の香道秋彦の名もあった。
「この事件、麻衣子が巻き込まれていたので兄から少しだけ話を聞いたことがあります。麻衣子からも私の兄が捜査担当にいたって連絡が来たりしましたし……」
『加藤さんの事情聴取の担当は香道さんだったからな。……木村さん、アゲハは美月さんと佐藤の関係を知っています。この事件の関係者で、美月さんと佐藤が恋愛関係にあったことを知る人はどのくらいいますか?』
話題が美月と佐藤に及ぶと隼人の表情が固くなる。彼は重たい口を開いた
『ほとんど全員が知っていたと思います。佐藤が……海に落ちた時に泣き叫ぶ美月をあの場にいた全員が見ているはずですから』
『アゲハの正体を掴む鍵は3年前の事件にあると思います。この中に美月さんを恨んでいる人物はいますか? 何でもいいんです。少しでも思い当たることがあれば』
早河はファイルの3年前の事件関係者欄のページを開いて隼人の前に置いた。
「2006年は確かこの辺りに……」
なぎさが書棚から2006のラベルが貼られた分厚いパイプ式ファイルを取り出す。
早河はファイルのインデックスから8月のページを探して書類をめくった。
『ああ、やはりそうか。木村さんは3年前に静岡で起きた殺人事件の関係者だったんですね』
『はい。その事件で美月と知り合ったんです』
『この事件の時に、同じペンションに宿泊していた上野と言う刑事を覚えていますか?』
『上野さんですか? 今でも親しくさせてもらっています』
早河となぎさは顔を見合わせた。世間は狭いとはよく言ったものだ。
『上野警部は私の刑事時代の上司なんです。2年前まで私も刑事をしていましてね。木村さんとどこかでお会いしたことがある気がしていたんですが、3年前の事件の時に確かあなたの事情聴取を担当した覚えがあります』
『……ああ! 思い出しました。俺も早河さんとはどこかでお会いしたことがあると思っていたんです。あの事件の時に……』
早河が隼人の事情聴取を担当した3年前の事件は静岡の海沿いの町で起きた。ペンションの泊まり客だった啓徳大学の学生が殺され、さらにカメラマンと小説家の間宮誠治も殺された。
三人の被害者を出した連続殺人事件の犯人は同じペンションに宿泊していた佐藤瞬。
当時高校生だった浅丘美月はペンションオーナーの姪で、佐藤がペンション滞在中に彼と恋仲になってしまった。
逮捕直前に佐藤は美月の目の前で何者かの狙撃を受けて海に転落。海に落ちた遺体の捜索をしたものの、潮の流れの速い地点だったため捜索は早々に打ち切られた。
佐藤の生存の確認ができないまま事件は被疑者死亡の形で幕を閉じる。これが3年前の悲劇。美月にとっては悲恋の白昼夢だ。
(早河シリーズ序章【白昼夢】参照)
『私もまさかこんな形で木村さんと再会するとは思いませんでした。あの時の高校生が美月さんでしたか。……なぎさ、ここに友達の加藤さんの名前もあるぞ』
早河はなぎさにファイルを見せて事件関係者の項目を指差した。浅丘美月、木村隼人の他に加藤麻衣子の名もある。
事件の担当刑事欄には早河、上野、小山真紀、原昌也、なぎさの兄の香道秋彦の名もあった。
「この事件、麻衣子が巻き込まれていたので兄から少しだけ話を聞いたことがあります。麻衣子からも私の兄が捜査担当にいたって連絡が来たりしましたし……」
『加藤さんの事情聴取の担当は香道さんだったからな。……木村さん、アゲハは美月さんと佐藤の関係を知っています。この事件の関係者で、美月さんと佐藤が恋愛関係にあったことを知る人はどのくらいいますか?』
話題が美月と佐藤に及ぶと隼人の表情が固くなる。彼は重たい口を開いた
『ほとんど全員が知っていたと思います。佐藤が……海に落ちた時に泣き叫ぶ美月をあの場にいた全員が見ているはずですから』
『アゲハの正体を掴む鍵は3年前の事件にあると思います。この中に美月さんを恨んでいる人物はいますか? 何でもいいんです。少しでも思い当たることがあれば』
早河はファイルの3年前の事件関係者欄のページを開いて隼人の前に置いた。