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『志摩が手を出すのは君に害をなす奴だけだよ。女を抱くのも男を殴るのも、あいつの行動原理はいつだって桜子ちゃんだ』

 大学時代、私のお金や荷物がなくなることが頻繁にあった。
 けれど志摩に三股をかけられた友人たちが大学を辞めてからぴたりとなくなった。

 私が困っていると大抵志摩がトラブルを起こし、いつのまにか困り事は解消されていた。

 全部私のために? 他人に興味も執着もなくいつも飄々としている志摩が……。

『桜子ちゃん。志摩の背中見たことある?』

 問いかけに首を横に振る。

『今度見てみな。俺の言葉が嘘じゃないってわかるから』

 じゃあね、と言って電話が切られた。色んなことをいっぺんに告げられて頭が混乱していた。

 冷静になろうと息を吐き出した時、玄関のドアが乱暴に開いた。
 びくっと体を震わせ振りかえると、そこに志摩が立っていた。彼の服や手は血で汚れていて、悲鳴を上げる。

「志摩、大丈夫⁉」

 駆け寄る私を見て、志摩は「騒ぎすぎじゃろ」とのんきに笑った。

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