名前
「だってこんな血だらけで……っ」
「安心せぇ。わしは怪我しとらん」
「だったらこの血は?」
志摩は問いかけには答えず、一万円札の束を無造作にテーブルに置いた。
私が久住さんに預けた金額より明らかに多い。
「ひとりで殴りこんでお金まで奪ってくるなんて、なに考えてるのよ!」
「お嬢を泣かしたんじゃ。安すぎるくらいじゃろ」
考えるよりも先に手が動いた。パチンと大きな音がして、志摩が目を丸くする。
手のひらに痛みを感じて、自分が志摩の頬を平手打ちしたことに気付いた。
「いって。なにするんじゃ」
志摩の言葉を遮って怒鳴る。
「もっと自分の命を大事にしてよ、バカ!」
「バカってなんじゃ。せっかくわしがお嬢のために……」
「お金を取り返してなんて頼んでないし、私のために危ないことをされても、うれしくない!」
感情をコントロールできなくて、叫びながら志摩の肩や胸を叩いた。
私が気付かなかっただけで、今まで志摩はずっとこんなことをしてきたんだろう。
手を血で染めながら平気で笑う志摩にも、まったく気づけずにいた鈍感な自分にも、どうしようもなく腹が立った。