名前
「ちょっと待て。お嬢、落ち着け」
「うるさい! いつも涼しい顔して人をからかって本心なんてちっとも見せないで、ほんとむかつく! 私はただ、志摩がそばにいてくれればそれでよかったのに……っ!」
出会った時から志摩が好きだった。
けれど、どんなに好きでも決して女として見てもらえないのがつらかった。
地元を離れたのは、周囲からの偏見から逃げたかったのもあるけれど、叶わないとわかっていて志摩を想い続けることに疲れたのが一番の理由だった。
泣きながら叩き続けていると、志摩が私の腕をつかんだ。振り払おうとしたけれど、彼の手はびくともしなかった。
息を荒くしながら志摩を睨む。
そんな私を見下ろして志摩が笑った。
「癇癪を起した子供みたいじゃな」
「うるさい!」
「もう暴れんな。お嬢まで汚れてしまう」
言われて自分の体を見下ろす。私の腕や服にも赤黒い汚れがついていた。
「いいよ、汚れても」
「わしは嫌じゃ。お嬢には綺麗なままでいてほしい」
「なにそれ。自分勝手でむかつく」
「自分勝手で悪かったな。でも、わしはこんな生き方しかできん」