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「お嬢がはじめてクッキーを焼いた日のこと覚えとるか?」
彼の質問に「もちろん」とうなずく。
「あん時、わしは全てに失望して投げやりになっとった。あのまま死ねるならそれでいいと思っとった。それなのにお嬢が震える手で不格好なクッキーを差し出して、わしが食べるまでじっとみつめてきて。仕方なくひと口食べたらめちゃくちゃまずくて笑ったわ」
「仕方ないでしょ! はじめて作ったんだから」
失敗なんて誰にでもあると必死に言い訳をする。
「『次は絶対おいしいって言わせるからっ!』ってむきになるお嬢を見て、こいつがクッキーを上手に焼けるようになるまでは生きてみようと思った。お菓子作りの腕が上がったら、今度はお嬢が大人になるまではそばにいたいと思うようになった。気付けばずるずると今日まで生きてきた。全部、お嬢がいたからじゃ」
「それって、私が好きってこと?」
愛の言葉をねだると、「どうじゃろうな」とはぐらかされた。
「嘘でもいいから、好きって言ってよ」
「いちいち言わんくてもわかるじゃろ」
「わかってても言ってほしいんだよ」
私がそう言うと、志摩が意地悪く笑った。