戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「シルファ?」


 ぼーっとしていたからだろう。心配そうにルーカスが下から覗き込んできた。

 少し俯いていたため、サラリと流れたシルファの髪が、カーテンのように周りの景色を遮断している。そのため、覗き込まれると視界がルーカスでいっぱいになる。

 間近で見る黄金色の瞳には、シルファだけが映っている。

 思わず息を呑み、慌てて姿勢を正した。
 いくら子供の姿とはいえ、この距離は落ち着かない。


「す、すみませんっ。ええっと、早速始めましょうか」

「ああ、頼む。だが、無理はしないでくれ。今日は感覚を掴むだけでいい。環境が変わったばかりなのだ。無理に今日頼むことではなかったと今まさに反省している」


 労わるようにシルファの手を小さな手で包み込むルーカス。こうして触れられていても、嫌悪感は一切感じない。

 それはすでに二人が形ばかりとはいえ夫婦だからなのか、それとも――


「では、失礼します」


 シルファは雑念を払うように小さく頭を振ってから、ルーカスの手を握り返して目を閉じた。

 魔導具から魔力を吸収することはしょっちゅうだが、実は対人に使うのは初めてだ。

 呼吸を整え、握った手に意識を集中させてルーカスの魔力を探る。

 するとすぐに、どぷん、と深い深い海のように、果てなき魔力を感じた。魔力の底が知れなくて、一体どれほどの魔力を保有しているのかと、気づけば背に汗が伝っていた。気を抜けば、呑み込まれてしまいそうだ。

 凪いだ海の底深くに、とりわけ強力で高濃度の魔力を感じる。きっとこれが退行魔法の際に練り上げすぎた魔力なのだろう。海の中にいるのに、燃え盛るマグマのようなエネルギーを感じる。





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