戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「では、行こうか」

「はい」


 ルーカスはぴょんっとソファから降りると、優雅な身のこなしでシルファに手を差し出した。

 これは、エスコートだ。

 一般的な貴族の令息令嬢は十六歳になったら華々しくデビュタントを迎える。
 だが、シルファはその頃すでに継母から侍女同然に扱われていたため、もちろん社交界への参加も禁じられていた。だから実質、初めてのエスコートとも言える。

 シルファは最大限優雅に見えるようにと、背筋をピンと伸ばしてルーカスの手を取った。


「……ありがとうございます」

「気にするな」


 きっと、エスコートに対する礼だと捉えたのだろう。
 ルーカスは楽しげに笑みを深めながら、シルファの手を引いてくれる。

 まだたったの一日であるが、シルファはこの数年で失ったことの多くを取り戻した気がする。

 自らの仕事に対する自尊心、探究心、知的好奇心、そして温かな人の心。

 ルーカスはたくさんのことをシルファに与えてくれる。

 いつの間にか、知らず知らずのうちにシルファは諦め癖がついていたように思う。分を弁え、期待しすぎないように、と。無能だ、役立たずめと罵られ続けてきた日々は、シルファの心に影を落としていたらしい。

 けれど、ルーカスはシルファ自身をまっすぐに見て評価してくれる。
 だからこそ、シルファも彼に応えたい。

 彼を縛る退行魔法は必ず解除してみせる。

 シルファは決意を新たにキッチンへと続く扉をくぐった。





 ◇

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