戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「さて、これ以上根を詰めて愛しい妻に心配をかけるわけにはいかんな。今日はここまでにしよう」


 ルーカスはそんなことを言いながら、シルファに手を差し出した。

 サラッと聞き捨てならない言葉が聞こえたが、無意識なのかどうなのか。ルーカスはとにかく楽しそうに微笑んでいる。
 シルファはパクパクと口を開けたり閉めたりしながら、おずおずとルーカスの手を取り立ち上がる。

 相手は子供だ。見た目だけは。

 そう、見た目は子供。けれど、その物腰や雰囲気、そしてシルファを見つめる和やかな瞳が、彼が成人男性であると疑わせない。
 つまり、子供の姿であれ、愛しいだなんて言われて平静でいられるわけがないのだ。

 ただの常套句だとしても、その言葉にはそれだけの破壊力があった。


「そ、そうですよ。私たちは形だけでも一応は夫婦なのですから、妻に心配をかけすぎないでくださいね」


 強がってそう言ってはみせるが、「そうだな」と微笑みを返されて撃沈してしまう。

 二人で寝室に入り、ルーカスはシルファをベッドの端に座らせた。


「えっと、私はこっちの端で寝るので、ルーカス様はあちら側をどうぞ」

「承知した。俺は軽くシャワーを浴びてから寝るから、先に休んでいろ」


 そう言って、ルーカスはシルファの頭をやんわりと撫で、浴室へと向かってしまった。

 シルファはその姿を見送り、火照った頬を押さえながらベッドに潜り込んだ。

 ベッドの端ギリギリに横たわりながら視線を上げると、魔導ランプが目に入る。
 グッと手を伸ばすと届く距離にあるそれを、愛しむように撫でた。

 今日は心地よい疲労感に包まれている。オルゴールの音色がなくとも、眠りにつけそうだ。

 そう思いながらまどろんでいると、遠くでシャワーの水音が聞こえてきた。
 規則正しい音が心地よく、うとうとと瞼が落ちてきて、まもなく意識を手放した。





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