戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 翌朝。

 布団がとても温かく、脳はすでに覚醒しているというのに身体が起床を拒んでいる。
 いつまでもずっとこうしていたいと思うが、残念なことに今日も仕事だ。ルーカスの助手見習いとして覚えるべきことはたくさんある。それに、大切なメンテナンスの仕事もある。

 よし、と気合を入れて目を開けると、目の前に幼気な少年の美しい寝顔があった。


「ひえっ」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまい、慌てて鼻先まで布団に潜り込む。

 広いベッドの両端で寝たはずが、どうしてベッドの中心で向かい合うように眠っているのか。

 シルファが混乱している間に、ルーカスも長いまつ毛を震わせて、ゆっくりと目を開いた。


「ん……ああ、おはよう。奥さん」

「おく……!? お、おはようございます」


 未だ微睡の中にいるルーカスは、ふにゃりとした笑みを浮かべながら、ゆっくりと小さな手を伸ばしてシルファの頬を撫でた。宝物に触れるような、そんな触れ方だ。

 とろんと潤んだ黄金色の瞳は色っぽく、ずっと見つめていると吸い込まれてしまいそうに錯覚する。


「って、な、なんで……」


 続く言葉が紡げずにいると、ルーカスがキョトンと首を傾けた。


「ん? 覚えていないのか? シルファが寝返りを打ってこちらに寄ってきたんだぞ」

「えっ!? す、すみませ……」


 慌てて謝ろうと身体を起こすが、頬を撫でていたルーカスの手がシルファの手首を掴んで制止した。


「謝ることではないだろう。俺たちは夫婦だ。昨晩そう言ったのは君の方だろう?」

「う……」


 確かに言った。だが、まさか身を寄せ合って寝ることになろうとは思ってもみなかった。






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