戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 視界の端ではルーカスの後頭部で緩くまとめられた濡羽色の髪がゆらゆら揺れている。

 ぎゅうぎゅう抱きしめられて目が回りそうになったところで、ようやくルーカスはシルファの両肩に手を置いて身体を離してくれた。


「シルファがいれば、失敗を恐れずにどんどん新しい魔術式を試すことができる。少しずつ新規開発部や回路構築部からの依頼をメンテナンス部で請け負ってもいいな。自分たちの研究の一助となると分かれば、職員のメンテナンス部に対する考えも変わるかもしれないぞ」


 無邪気な子供のように嬉々として語られ、面映いがじわりと嬉しい気持ちが胸に広がる。

 ルーカスの契約上の妻となってから、本当にたくさんの発見がある。新しい自分がどんどん見つかるようで、毎日が楽しくて仕方がない。何より、幼い頃より憧れ続けてきた魔導具の開発に少しでも携わることができる。そのことがたまらなく嬉しい。


「シルファさえ良ければ、これから無理のない範囲で俺の研究を手伝ってくれないか?」

「っ、はい、喜んで!」


 言葉を詰まらせながらも、前のめりに返事をする。ルーカスはただ笑ってシルファの覚悟を受け止めてくれる。

 その屈託ない笑顔を見て、いつか母に言われた言葉を思い出した。


『あなたの力を必要とする人は、きっといるわ』


 ルーカスはシルファの存在価値を見出してくれる。視野を、世界を、そして未来を広げてくれる。


(もっと、もっとルーカス様の役に立ちたい)


 早速デスクに戻って回路の修正を始めたルーカスを見つめながら、シルファは熱くなった胸に両手を添えた。

 いつの間にか、生まれて初めて抱く感情がシルファの胸の奥深くに芽吹き始めていた。





 ◇

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