戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 ルーカスは元の姿に戻ってからもシルファに離婚を切り出すことはないと言ってくれている。実際、ルーカスはシルファにとても優しく、対等に扱ってくれている。

 もう二ヶ月も共に時間を重ねてきた。自惚れでなければ、二人の関係は良好だと思う。

 彼の言葉通り、きっとルーカスはシルファが望むのならば、ずっとそばに置いてくれるだろう。

 けれど、不意に考えてしまう。
 本当に自分はルーカスに相応しいのか、と。

 片や王国一の天才魔術師。片や、魔力を吸い取り中和することだけが取り柄の落ちこぼれ。魔導士と名乗るのも烏滸がましくて名乗れていない小娘だ。


(魔力が強くて、魔導具の知識も豊富で……そんな女性が現れたら、ルーカス様だってその人がいいって考えを改めるかもしれないわ)


 シルファとルーカスはかりそめの夫婦。互いの利のために結ばれた契約結婚。

 魔塔の最上階で過ごしていると、幸せな時間が永遠に続くのではないかと錯覚してしまう。
 けれど、魔塔の外に出てみれば、やはりその頂は遠い。

 本来、地下で過ごしてきたシルファにとって、手の届かない場所なのだ。


(……ダメダメ。せっかく久しぶりに外に出たんだから、楽しいことだけを考えよう)


 シルファはふるりと首を振ると、余計な考えを頭から篩い落とした。

 視線を上げれば、首が痛くなるほど高く聳え立つ魔塔が見える。
 ルーカスはきっと今も研究に没頭しているのだろう。

 シルファは無意識に胸元のビードロのブローチを指で撫でながら、再び前を向いて歩き始めた。




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