薬師見習いの恋
「国が見放した村だけど、ロニー先生だけは見放さないでくださいね。ありもしない幻の草なんて探してないでこの村に落ち着いてくださいよ」
 マリーベルが言いたくても言えない言葉がマーゴットの口から出て来たのでどきっとした。

「最善を尽くしますよ」
 ロニーはまた笑みを浮かべる。
 マリーベルは気づいてしまう。ずっとここにいるとは言ってくれない。やっぱりいつかここを出て行くつもりなんだ。

「じゃあ、行ってきます!」
 叶わぬ恋の悲しみをふりきるように明るく言い、マリーベルは彼の家を出た。



 ルスティカ家への道を歩きながら、マリーベルはロニーが来たときのことを思い出していた。

 彼は去年の冬、この村の東側で倒れていた。
 見つけたのはマリーベルで、彼女はすぐに父のブレンドンに助けを求め、父は彼を自宅へ連れ帰った。
 高熱を発していた彼を看病したのは母のレターナとマリーベルだった。

 最初、マリーベルは彼が神の使いなのかと思った。
 それほど彼は美しかった。この辺りでは見たことのない銀髪に白い肌。ブルーベルの花のような青紫の瞳。着ている物は質素だが上質で、ただの旅人ではないことは一目瞭然だった。

 彼が持っていた粉薬を彼の指示通りに飲ませて数日、無事に回復した。
 彼はロニーとだけ名乗り、薬師をしていると言った。

 薬師は薬の作成、投与を専門としていて、この国では医師の診断なく薬を分け与えることが許されている。

 百年ほど前までは病気は神が人々に罰として与えるものとして考えられていたが、医学を含む科学の発展とともにその考えが薄れ、薬師の数は増えつつある。
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